Prusament PC Space Grade Black 850g

PC Space Grade Black について

Prusament PC Space Grade Black は、宇宙産業や素粒子物理学の分野向けに開発された高性能フィラメントです。その最大の特長は、優れたESD（静電気放電）特性と極めて低い脱ガス性能にあります。さらに、手頃な価格と一般的なデスクトップ3Dプリンターでのプリント容易性を兼ね備えており、この業界の中でも非常にユニークな素材です。優れたESD特性とデスクトッププリンターでの高い互換性により、宇宙空間で使用される部品だけでなく、電子機器の筐体などの高度な個人プロジェクトにも最適です。

誰もが使えるハイエンド素材

私たちの目標は、宇宙関連部品の試作や製造をより手軽にする、プロフェッショナルかつ手頃な素材を開発することでした。これまでこの分野では、ESD特性を備えた PEEK、PEKK、PEI などの高価な材料しか使用できませんでした。これらの素材は、非常に高額な産業用3Dプリンターを必要とします。しかし、Prusament PC Space Grade Black はほとんどの Prusa 3Dプリンターでプリント可能であり、製造コストを大幅に削減すると同時に、より多くの人々がこの素材を利用できるようにします。

静電気放電特性（ESD特性 / Electrostatic Dissipation Properties）

宇宙機器に使用される部品に求められる主要な特性のひとつが、静電気放電（ESD）特性です。この特性は宇宙開発エンジニアだけでなく、電子機器を扱うすべての人にとって重要です。ホビー用途では、ESD対応素材を使ってカスタムPCケースなどを製作することもできます。静電気拡散性（dissipative）材料の抵抗値は、10⁴～10¹¹Ω の範囲にあり、それより高い抵抗は絶縁体、低い抵抗は導電体とみなされます。Prusament PC Space Grade Blackで造形した3Dプリントサンプルの体積抵抗率と表面抵抗率を測定した結果、非常に高いESD拡散性能が確認されました。体積抵抗率は 2.2×10⁴ Ω·m、表面抵抗率は 6×10⁷ Ω/sq でした。これらの優れた数値は、アニーリングや研磨などの後処理を一切行わずに、3Dプリントしたサンプルそのままから得られたものです。つまり、このフィラメント自体に安定したESD特性が備わっており、信頼性の高い静電気拡散性能を必要とする幅広い用途において、プリント後すぐに実用化できることを示しています。

脱ガス

真空環境下では、ポリマー内部に残留する未反応モノマーや高分子劣化による生成物が放出されることがあります。これらは、衛星などに使用される電子機器に影響を与えたり、損傷を引き起こしたりする可能性があります。放出されたガスは光学機器の汚染や、高精度センサーの測定誤差を引き起こすこともあります。さらに、ガスの放出そのものが材料の物理的・機械的特性を低下させる要因にもなります。低脱ガス特性を持つ熱可塑性ポリマーを製造することは非常に難しく、一般的にはPEKKやPEEKといった高価な産業用グレード素材によってのみ実現されています。しかし私たちは、比較的安価で一般的かつプリントしやすい素材であるポリカーボネート（PC）を使用し、欧州宇宙機関（ESA）が定める厳しい基準を満たすことに成功しました。

測定された脱ガス値：

TML（総質量損失 / Total Mass Loss）：質量損失率をパーセンテージで示します。ESA（欧州宇宙機関）の基準値は 1％以下 ですが、Prusament PC Space Grade Black は 0.25％ を達成しました。

CVCM（Collected Volatile Condensable Material／凝縮性揮発物の総量）：ESA（欧州宇宙機関）が定める上限値は 0.1％未満ですが、Prusament PC Space Grade Black は完璧な 0.00％を達成しました。

RML (Recovered Mass Loss): The maximum limit stated by ESA is 1.0 %; the Prusament PC Space Grade Black reached 0.12 %.

試験結果および使用した測定方法の詳細は、発表記事 およびAerospace & Advanced Composites GmbH が発行したテストレポート でご確認いただけます。

機械的特性

TRL Spaceとの共同プロジェクトの初期段階で、単一ユニットのCubeSat設計に関する有限要素法（FEM）シミュレーションを実施し、3Dプリント部品が満たすべき最低限の機械的特性値を設定しました。その最低基準値は以下の通りです：・引張強度（Tensile strength）：70 MPa・引張弾性率（Tensile modulus）：2 GPa・層間接着強度（Interlayer adhesion）：10 MPa・熱変形温度（HDT）：100 °C

Prusament PC Space Grade Black は、これらの基準をすべて上回る性能を発揮しました。以下の結果を達成しています。

• 引張強度（Tensile strength）：75 MPa
• 引張弾性率（Tensile modulus）：3.7 GPa
• 層間接着強度（Interlayer adhesion）：18 MPa
• 熱変形温度（HDT）：137.6 °C（0.45 MPa荷重時）

これらの特性値（脱ガス性能およびESD特性を含む）を満たすことで、このフィラメントは将来のCubeSat（超小型人工衛星）製造に適した、手頃で有望な材料として強い候補となります。機械的特性の詳細については、技術データシート（Technical Datasheet）をご覧ください。

プリントセットアップ

Prusament PC Space Grade Black は、一般的なデスクトップ3Dプリンターでも通常のポリカーボネートと同様にプリント可能です。反りが非常に少なく、200×200 mmサイズのモデルでも、Prusa 3Dプリンターで問題なく安定してプリントできます。

対応3Dプリンタプロファイル：Prusa Core One、MK4S、XL、Prusa Pro HT90（※他社製3Dプリンターでも使用可能です）

フィラメントの乾燥：プリント前にフィラメントを60℃で6時間乾燥させ、プリント中もドライボックス内で保管することをおすすめします。乾燥した状態の Prusament PC Space Grade Black は、非常に高い寸法精度と、優れた機械的特性および脱ガス性能を発揮します。

基本特性

初心者のためのヒントとコツ

硬化ノズルの使用が必要です。カーボン添加剤は非常に研磨性が高く、真鍮ノズルを損傷させるおそれがあります。

ポリカーボネート自体は、ユーザーに対して重大な健康リスクをもたらすものではありませんが、換気の良い環境、または活性フィルター付きのエンクロージャーでプリントすることを推奨します。これにより、UFP（超微粒子）やVOC（揮発性有機化合物）の発生を最小限に抑えることができます。カーボン添加剤はポリマー内部に結合しており、健康上のリスクはありません。また、集中的に研磨を行う際は、保護メガネ・防塵マスク・手袋などの保護具を使用してください。

製造工程全体は、最初から最後までトレーサブル（追跡可能）です。まず、すべてのPrusamentスプールには、直径の均一性、重量、長さ、真円度、標準偏差などの製造データを提供しています。さらに、Prusa Connectを通じて、3Dプリントの進行状況やテレメトリ情報をリアルタイムで追跡することができます。

blog.prusa3d.com もしくは Material tableで、より詳細なプリントのヒントをご覧いただけます。

TRL Spaceとの共同開発によって誕生しました。

Prusament PC Space Grade Black は、チェコの宇宙企業 TRL Space との共同開発によって誕生しました。本社をブルノに置く同社は、衛星ミッションの企画から打ち上げ、データ解析までを一貫して提供するフルターンキー型の宇宙企業です。TRL Space は、欧州宇宙機関（ESA）や世界各国の宇宙関連機関と連携し、地球軌道や月面探査に向けた独自技術を開発しています。世界中の科学者、エンジニア、そしてビジョナリーたちを結びつける役割を担っています。同社は、TRL Group の一員であり、同グループには TRL Drones、Zaitra、Corac Engineering、MecMa など、先進技術を世界に提供する複数のテクノロジー企業が属しています。

メモ

Prusament PC Space Grade Black は、Prusa Research 社内で製造されています。

1.75mmフィラメントは±0.04mmの精度で製造されています。

このタイプのフィラメントについては、完璧な巻き上げを保証するものではありません。